東京地方裁判所 昭和36年(ワ)3058号・昭36年(ワ)456号・昭37年(ワ)6174号 判決
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〔事実と判断〕標記判示に必要な限度で事実を摘記すると次のとおり。原告松井は昭和三四年一二月二一日被告鹿田志げよ、同利吉の両名から本件建物を買い受ける旨の契約をし、その際被告両名のため昭和三五年九月三〇日までに右売買代金と同額の五〇〇万円を提供すれば本件建物を買戻すことができる旨の買戻権を設定した。またその際原告松井は被告志げよ、同利吉、同賢吉の三名に本件建物中の三室を買戻期限の昭和三五年九月三〇日まで使用することを許容したが、右買戻期限を経過した後の昭和三六年四月一日被告志げよは被告北里良三に対し、本件建物の一階六号室を賃貸し、被告北里がその後同室を占有して来た。そして原告松井は、昭和三六年八月二日仮登記仮処分命令を得て、本件建物につき所有権移転の仮登記を経たが、被告志げよらが前記買戻代金額は三〇〇万円であり、これを提供して適法に買戻権を行使したと主張して、右仮登記の抹消を求める訴を提起したので、被告志げよに対し右仮登記に基く所有権移転の本登記手続を求め、かつ占有中の被告らに対し所有権に基いて各室の明渡を求めた。
判決は、原告松井の被告志げよらに対する請求を容れたが、被告北里に対する請求については次のように判示してこれを棄却した。曰く、
「原告松井は仮登記の本登記手続請求と併合した場合には仮登記のままでも所有権を対抗できるものであると主張するもののごとくであるが、一般に仮登記権利者からの本登記請求とこれに牴触する登記の抹消請求とが併合されている場合に後者の請求をも同時に認容する理由は、それが同一登記簿上の矛盾抵触する登記関係を一挙に整理するために最も有効適切な方法であり登記制度の存在理由たる公示の要請にもより良く応える結果となるからであつて、通常一通の判決書によつて一個の登記申請が行われることで本登記より先に抹消登記が行われるといつた現象が考えられないところから肯認されるものであつて、仮登記のまますべての第三者に対抗できることを肯定したものではなく、あくまで一不動産一登記簿を前提とする現行の登記制度上抵触する登記を排除する関係でのみはじめて肯定されるにすぎないものと解すべきである。それゆえ、当裁判所は仮登記のままの所有権者にすぎない原告松井は、本登記請求と併合したからといつて当然には仮登記後の適法な不動産賃借人である被告北里にその所有権を対抗できないものと判断する。(そうでないと、たとえ判決が確定しても仮登記権利者は本登記を経ないままその所有権に基き仮登記後の適法な賃借人の不動産の占有を奪うことができ、仮登記本来の効力を逸脱した権能を取得することになり、理論的にも首肯できない結果となる。)もつとも下級審判決の中には、本登記を経たのちにあらためて所有権に基く妨害排除の訴を提起すべしというのは迂遠であるとして原告松井のような見解をとる例も一、二あるが、当裁判所の見解に従つても、仮登記権利者は本登記権利者は本登記を経由した時に明渡を求める旨の将来の給付請求を併合すれば敢えて別訴に及ぶまでのことはないのであるから、必ずしも迂遠なものではない。」(石田哲一 滝田薫 山本和敏)